[ EP: 科学に佇む心と身体 ]

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老人差別の基礎知識:エイジズムと高齢者心理学

カテゴリ[科学に佇む2008年] 2008/06/26
 高齢者とは、どんな人たちだと思いますか。
 そのイメージを述べることは、すなわち高齢者に対する差別になりますか。

◆左表紙

 『朝倉心理学講座 15 高齢者心理学』
 海保 博之監修 権藤 恭之編
 朝倉書店 (2008/02)
 [ Amazon ] [bk1]


●右画
 ヒトは歳をとるとどんな心になっていくのだろう。
 基本的に、「高齢者」とひとくくりにするのは無理な話だ。
 当該書でも再々指摘されているが、まず高齢者としてくくられる人々は、心理的にも環境的にも身体的にも、はるかに若年層連中よりバラエティに富んでいて、「これが高齢者だ」という像を結ぶのが難しいんですよ。どうくくっても、誰かに失礼になってしまう。
 すべての家電製品が、年月を経て同じ壊れ方なんかしないのと同じこと。
 いろんな使い方をすれば、いろんな壊れ方もするし、いろんな磨り減り方も、さらにはみごとな研ぎ澄まされ方も、するわけで。
 双生児研究でも、育ち方や勤め方、食い物・運動・環境汚染などのさまざまな要因で、うりふたつだった一卵性双生児が、双子とは思えないほど相貌や性向が離れていきうることが示されている。

 ヒトはいろんな高齢者になっていく。

 その上で、学問として「高齢者の心理」を研究するにあたって、研究者はなんらかの「高齢者にみられる特徴」を抽出して仕事をすることになる。研究成果は尊重されるべきだし、参考にしてもいいだろう。
 ただし。
 それら「高齢者にみられる特徴」は、現実には高齢者各人の個人差のでかさに、かき消される。

●この世の三大差別

 世の中には、大きな差別が3つあるのだそうだ。(p.55)
  ● レイシズム:人種差別
  ● セクシズム:性差別
  ● エイジズム:高齢者差別
 いずれも、現実には各人の個人差のほうがはるかにでかいのに、「黒人ならこうだろう」「女ならこうだろう」「じじいならこうだろう」などの偏見で安直に一括処遇されてしまうことが問題になる。

 相手はホントはすごく多様なんだ。
 多様さを扱うには脳力がたくさん必要になる。たくさんたくさん個人の違いに配慮をしなければならないからね。
 でも、残念ながら”脳力”が少なくて多様さに対する配慮をしきれない人は、安直な一括処理ができる偏見世界がこの上なく魅力的に思えてしまうらしいんだ。
 「あいつらは**に決まっている!」
 そのセリフはすなわち、自分はバカだと表明していることになるんだけどね。でも脳力を使わなくてすむ魅力の前には、他者に対する失礼さなど「そんなのかんけいねぇ」なんてなことになってしまうようなんだ。

 三大差別の中でも、いちばんほったらかしにされているのが、高齢者に対する差別。(p.56)
 まずいことに、高齢者自身、自分たちの側について世間の偏見に沿った見方をしてしまっていることさえある。なぜなら、彼らは若いときに高齢者に対する偏見を刷り込まれ、そのまま高齢者になっていくから。achar2

 しかし、高齢者はどのような偏見にさらされているというのだろう?
 自分たちが考える高齢者像は、どのくらい偏見にまみれた虚像なのだろうか?
 そして、その高齢者像は、心理学者が描き出す研究結果と、どうずれているのだろう?

「■」

 以下、●本 『朝倉心理学講座 15 高齢者心理学』 にある内容と、手元の過去記事倉庫から並べていきます。
●本  『朝倉心理学講座 15 高齢者心理学』
 海保 博之監修 権藤 恭之編
第1部総論:高齢者心理学の基礎
 佐藤眞一:「高齢者と加齢をめぐる心理学的考察の歴史と展望」
 権藤恭之:「生物学的加齢と心理的加齢」
 成田健一:「高齢者を取り巻く社会的環境」
第2部各論:高齢者心理学の展開
 熊田孝恒:「注意」
 石原 治:「記憶」
 稲垣宏樹、高山緑:「知能,知恵,創造性」
 藺牟田洋美:「情動・感情と幸福感」
 増井幸恵:「性格」
 小林江里香:「高齢期の社会関係」
 檮木てる子:「臨床 高齢期の心理的問題」
 小野寺敦志:「臨床 心理的介入法 臨床的介入の実際」
研究ガイド 高齢者心理学を学ぶ人のために


〓〓〓 EP 〓〓〓

アンカー【高齢者は記憶力が落ちますか?】


●年をとると記憶がダメになるんだろうか?

 十把一絡げにして絞り出したデータでは、なんぼか若い人との差が出てくる。
 一口に「記憶」と言っても、いろんな記憶機能のタイプがヒトには備わっている。脳内の一カ所が記憶を行うわけではなく、さまざまな機能や部位が複雑に協力して処理してくれているわけで、その協力の出来具合によって、それぞれの記憶機能は向上したり錆び付いたりする。
●本 『朝倉心理学講座 15 高齢者心理学』
p.81  「記憶の種類と加齢の影響」
【短期記憶】(数秒から数分の間覚えておく記憶)
 ほとんど加齢の影響なし
【作動記憶】(脳内作業のために当座の短時間だけ記憶をする、まないた記憶。「5-4-3-2」という数字を「2-3-4-5」と逆順に答えるときなどに活躍)
 加齢の影響が顕著
【エピソード記憶】(個人的な時間・場所・出来事の記憶。「昨日どこにレスしたか」「去年メガネを壊した状況は」・・・)
 加齢の影響が顕著 (成人期の比較的早い時期から徐々に衰退)
【意味記憶】(あたりまえな知識の記憶。「ぬこは四つ足」「北海道は日本の北国」)
 加齢の影響は(ほとんど)ない
【手続き記憶】(体の動かし方。一輪車の乗り方やスポーツのスキル)
 加齢の影響がない
【展望的記憶】(将来についての記憶。待ち合わせの時間や場所、〆切に合わせた作業プラン・・・)
 加齢の影響があるっぽいけど、理論的には議論の余地あり

 落ちていく記憶機能もあるけれど、職人のワザ【手続き記憶】は一生キープされる!

老化は、想像力を衰えさせる
2008/01 news@nature.com Ageing makes the imagination wither
 老年期の記憶低下は、同じく想像力低下をも意味するかもしれない。
2008/01 EurekAlert Lack of imagination in older adults linked to declining memory
 高齢者においては、想像力の欠如も記憶力減退に関係する

老化現象は、脳の各部のつながりを悪くさせる
2007/12 EurekAlert The aging brain: Failure to communicate
 脳内連絡に失敗するがゆえに老化脳なのである
2007/12 EurekAlert Brain systems become less coordinated with age, even in the absence of disease
2007/12 BBC News Normal ageing 'can addle brain'
 普通の老化は『脳を混乱させる』のです

 ただし個人差は大きい。
 バツグンの記憶力を誇る高齢者もいらっしゃる。そこは忘れずに記憶しておいてね。

 その上、若人と高齢者は暮らしている環境に差が大きくて知能比較が難しいのだという点も、注意すべきなんだよね。
●本  『生涯発達の心理学』 高橋惠子・波多野諠余夫著 岩波新書 1990年
p.5
 知能テストは学校でよく行われるテストの典型だから、学校生活を長く送った者のほうが有利になる。 [〜中略〜] 若年群が中高年群よりも平均して高い得点をとるのは当然だということになる。 [〜中略〜] 中高年の知的衰退というのは、実はこういうサンプルの偏りからくる偽りの結果であった、ということが指摘されたのである。

●本  『朝倉心理学講座 15 高齢者心理学』
p.96
高齢者の成績が若年者に比べて劣っているということは示せるが,それが加齢の結果生じたものとは断言できない。高齢者と若い世代では,年齢以外で知能に影響を及ぼす要因に違いがあること,特に,高齢者と若年者との間では生きてきた社会的背景が決定的に異なっていることが考えられるからである。
 ・就学率や教育年数の違い
 ・研修など教育的な環境にいるか否か


●いつのまにか、少し壊れる

 年齢に関係なく、病や故障で、記憶力にトラブルは出るケースがある。若い人にだって、いつなんどき脳障害に見舞われるかもしれないリスクはある。故障すれば、高齢者でなくても、一瞬ののちに記憶力ががた落ちした人間になってしまいうるんだよね。
 そういう故障に襲われなければ、高齢になってもしゃっきりしている人のほうが多い。
老化脳に潜む『静かな』異常
2007/11 New Scientist 'Silent' abnormalities lurk within ageing brains
 45才以上の8人に一人は、血管障害や微細脳卒中、脳腫瘍などの脳異常を知らないうちに抱えて暮らしている。


〓〓〓 EP 〓〓〓

アンカー【性格が豹変する場合】


 性格が豹変する?
 たいへん残念ながら、脳が故障した場合、壊れるのは記憶だけではない。

... 以下つづき...

〓〓〓 EP 〓〓〓

 血管障害や微細脳卒中、脳腫瘍などのせいで、「性格」や「判断能力」も壊れてしまうことがある。
 → 『 脳みそに大穴があいた男 フィネアス・ゲージの物語 』
 脳の各部分には、
  ・冷静さを保つ機能
  ・自分の状態を正確に評価する機能
  ・いろいろな社会的要素のバランスを判断する機能
など、命に関わるほどではないけれど、それなりに大事な役回りがそれぞれ振られている。
 ある日、ある朝、その一部の機能が小さな脳卒中でトンでしまうと、「今朝は気分が良かったから、家族を大ハンマーで殺そうと思った」などという大惨事になってしまった・・・ そんな事態も、ありえる。(彼は犯行後、気絶していたわけで、循環器系の障害に加えて脳の気質障害も疑われる)

 いや、このくだりはたまたま昨日発生した大惨事にかこつけた文章です、閑話休題。

「■」

●若いもんが変

 故障うんぬんをよっこしても、もとより、「年寄りっぽい性格」が存在すると思い込まれているふしがある。豹変のごとき急変でなくても、年をとるとだんだん性格が***になっていくものなのだと。
 好々爺(こうこうや) ガンコじじい かわいいおばあちゃん ・・・

 ん? 高齢者だけか?
 成長するにつれて訪れる性格の変化といえば、何より高齢者以前に、まず、幼児〜青年期に顕著な性格変化があるんだよね。明らかに幼児の性格は大人とは違うし、思春期の性格はとんがらかるし。
  → 『 リスク指向:若気のいたりは25才で一段落 』
 喧嘩っ早いのも、目立ちたがるのも、バカやるのも怪我するのも25過ぎれば卒業ですか。
 これに比べりゃ、高齢期の性格変化など、全然たいしたことじゃなかったりする。
 そも、長い人生の中では、若いもんのほうが異常なのであって、年をとると性格がマトモになるのだよ、という見方もアリ。

〓〓〓 EP 〓〓〓

アンカー【高齢者の性格とは】


 個人差のほうが大きい。個人差のほうが大きい。個人差のほうが大きい。

 これだけ書いておけば少しは悪用を防げるかな。
 はい、以下、十把一絡げに無理してデータを出してみると、高齢者の性格や感情処理はこうなりましたという事例。

●お年寄りはストレート
2001/11 cnn.co.jp  高齢者は若者より正直 法政大グループが実験

若いもんは気が散っていかんのう
 お年寄りは若い者より集中力を持続できる
2007/11 EurekAlert Older adults not more distractible, research shows


●お年寄りが丸くなるわけ
お年寄りはこうして丸くなる
2006/06 New Scientist People do mellow with age, brain scans suggest
2006/06 BBC News The brain gets 'mellow' with age
 高齢の人々は、幸福の知覚は向上するけれど、恐怖はあまり知覚しなくなるっぽい
 年をとるにつれて円熟味が増すのはそのせいかな

高齢になると、展望がポジティブになる
2007/03 EurekAlert Getting older provides positive outlook
 感情的な情報を処理する上で、高齢者は若いもんより良いバランスを示す

歳をとるほどに気楽になって行くわけ
2003/06 American Psychological Association  AS WE GET OLDER, MEMORY 'ACCENTUATES THE POSITIVE',HELPING EXPLAIN WHY AGING CAN FOSTER GOOD FEELINGS
 Younger Adults Find it Harder to Filter Out Negative Images
 若い人は、いやな思い出を抑えるのが苦手なんだよな

齢のおかげでクールでポジティブ
2008/06 EurekAlert New research shows how aging brain brings a healthy dose of perspective
脳の老化がもたらす健全な観点
 少なくとも感情に関して言えば、年を重ねるにつれ真の知恵がやって来る
 高齢者は、感情的にネガティブな評価をする割合が、若い者より少ない
 感情コントロールの扁桃核と前部帯状回の活動が卓越し、ネガティブな点に振り回されずに、ものごとを評価をすることができるようになるらしい

人生の先輩は、みさかいなく争ったりいたしません
2005/05 EurekAlert Older people are better at picking their battles, studies show
 人間関係がトラぶったとき、高齢者は敵対行動より様子見を選ぶ
 若い連中ったらすぐ感情的になって見境がないよな

(※追記 ●● 『高齢者が昔をバラ色に見がちであるその理由』 その後の研究結果)

 若いもんは、ネガティブな情報に敏感すぎるんですよ。
 炎上大好き、不安大好き。ちょっと言われただけで、すぐはねっかえってテンパるし。炎上のコストが、感情にかき消されて見えなくなるんだね。
 社会不安情報に過敏にたかる「はてブ」とか、報道に舞い上がって一生役立たないであろう防刃シャツを買い込んでみたりとか。oyaoya

 青臭い年齢を超えたら、炎上コストはムダだしうざいだけ。

 ただし、個人差は大きいのです。
 こらえしょうのない「引っ越〜せ!」おばちゃんや、炎上好きの雷オヤジなど、世の中にはいろいろいらっしゃるのです。

●じいちゃんとばあちゃんの違い

 平均しまくったデータ上は、男女でこんな特徴が抽出されていたりします。
◆ 脳と心の地形図
 『脳と心の地形図:思考・感情・意識の深淵に向かって』
 リタ・カーター
 原書房 1999(原書1998)

p.101
・年とともに脳組織は減っていくが、男のほうが減りが早く始まり失う量も多い。
・男は、思考や感覚に関わる前頭葉と側頭葉の減りが激しい。怒りっぽくなるなど、人格が変わることがある。
・女は海馬や頭頂野の組織が減っていき、記憶力や空間視覚能力に影響が出る。もの忘れが目立ち、道を探すのも苦手になる。


2005/04 【日本語記事】UK Today (JAPAN JOURNALS LTD.)
かんしゃくは自己主張? 年をとればとるほど、女性は「怒りやすく」なる! (イギリス)

 なんか女に関しては矛盾しているけど、どちらもイギリスからの発信。

 はい、もっぺん注釈しておきます。
 性差より、個人差のほうが大きい。男のような女もいるし、女のような男もいる。
 そこを考慮せずに、女だから、男だから、とおおざっぱに他人様のことを処理してすませるのは差別。
 そこは忘れずに記憶しておいてね。

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アンカー【お年寄りの知恵とは】


 上で「記憶」に関して述べたけれど、今度は「知恵」。
 記憶と知恵はどう違うのかな?
●本  『朝倉心理学講座 15 高齢者心理学』
p.105 「熟達化としての知恵」モデル(ベルリングループ)

知恵とは
 「重大,かつ人生の根本に影響を与えるような実践場面における熟達した知識」
 「人生の意味と行為における熟達化である」

知恵には「2つの基礎基準」と「3つのメタ基準」がある
2つの基礎基準:
 宣言的知識(人生問題に対する広く深い知識)
 手続き的知識(状況分析・情報探索などの知識)
3つのメタ基準:
 文脈理解(問題の背景・文脈の把握)
 価値相対性の理解(多様な価値観の理解)
 不確実性の理解(人生の予測不可能性・不確実性の把握)

 ふむふむ。
 知恵は、蓄えた知識の使い方だね。
 人生問題に対する広く深い知識、状況分析・情報探索などの知識、問題の背景・文脈の把握、多様な価値観の理解、人生の予測不可能性・不確実性の把握・・・ たしかに、これらが卓越していれば「長老さま」っぽいね。

 そして、「知能」には、「流動性知能」と「結晶性知能」があり、
●本  『朝倉心理学講座 15 高齢者心理学』
p.96
「流動性知能」
 新しい場面への適応が要求される問題解決と関連が深い能力。
 生まれつきの能力の度合いが高い。
 生理学的・生物学的な衰えに強く影響され,身体の衰えと同じように加齢で衰える。

「結晶性知能」
 過去の学習・経験によって形成された知識や判断力,習慣による問題解決と関連の深い能力。
 教育や経験の総合。
 学習経験や知識の蓄積を反映し,生活習慣や訓練によって維持することも可能。

 高齢者は、「結晶性知能」を発揮することが期待される。人生経験の蓄積がなければ発揮できないアビリティ。
 そして、人生経験が乏しい若人では「結晶性知能」がしょぼしょぼで、「重大,かつ人生の根本に影響を与えるような実践場面における熟達した知識」も期待できないからこそ、彼らは青二才なのである。てか。
 それに加えて【手続き記憶】(体の動かし方のスキル)には加齢の影響がない、年をとっても職人のスキルは衰えることなく保持され、さらにアップもする。
 時代を超えて使える「手に職」を持てば、これはかなり心強いということだね。

◆ 
 『図解雑学 発達心理学』
 山下富美代編著
 ナツメ社 2002/03

p.20(大意)
 以前は、知能は青年期の早い段階でピークに達し、それ以降は徐々に衰退するとされていた。
 各学芸領域ごとの生産力をみたアメリカでの調査では:
・緻密な計算や分析を必要とする数学、科学、建築などは老年期で急速に低下
・言語的な能力や長年の経験に基づく歴史、発明の領域は老年期でも高レベル
 日本でも、工芸や刺繍などの分野で現役の高齢者は多い。文学賞などの受賞者には50代、60代の人たちもいるわけで、知的能力の衰えを単純には断言できない。


高齢者、たとい知識は失っても、知恵は失いませんよ
2006/07 EurekAlert Study: Elders with dementia can tap into memory stores to give advice

知恵は、年をとるにつれて本当に増大する
2008/01 THE AUSTRALIAN  Wisdom really does increase with age
 ヒトの脳力は、青年期に最大になる
 ヒトの知恵は、高齢期に円熟する
 20〜40歳の期間に算数能力は伸びを示さないが、言語能力は増大を続ける


〓〓〓 EP 〓〓〓

アンカー【高齢者的な作風ってあるのかな?】


 文学賞の話が出たところで、高齢者の「内面世界と創造力」についても書いておくね。
 前から、「年をとった漫画家は、なんか堅く色艶(のびやかさ)のない画風になるケースが多いような・・・」と気になっていたんでね。
●本  『朝倉心理学講座 15 高齢者心理学』
p.112
「白鳥の歌現象」
 作曲家の最後の作品はそれまでのものより短いけれど,旋律が明快で,深みのある作品が作られている傾向がある
 このような調和と統合が結晶したような作品が晩年に生み出される現象は,白鳥は最期に美しい声で鳴くという伝説になぞらえて「白鳥の歌現象」と呼ばれる

 へぇ〜。「白鳥の歌現象」ってのが音楽方面では知られているんだね!
 あ、いやいや、uhee「白鳥の歌現象」でぐぐってもほとんど情報がないではないか。「白鳥の歌現象」は知られていないのか!? もしくは、日本では「白鳥の歌現象」以外の呼称で沙汰されている?
 「白鳥の歌現象」を現す実例を拾ってみたかったんだけれど、何でぐぐればいいんでしょう?

 音楽だけに限らない全般的な分析では、こんな感じになるらしい。
●本  『朝倉心理学講座 15 高齢者心理学』
p.112 (大意)
「高齢期スタイル」とでもいうべき「高齢期の作品の4つの特徴」(Stemberg & Lubart,2001)
1:客観的な事実より、主観的な経験を重視する傾向
  内省的な手法や内的世界の経験が描かれたりしがち
2:調和を重んじる傾向がみられる
  上述した白鳥の歌現象はこれにあたる
3:これまでのさまざまな思考や思想を統合的にまとめたり,あるいは概略を示したりする内容のものになりがち
  自然科学,社会科学,哲学などの研究史をまとめたり,教科書が作られたり,これまでの業績をまとめた作品が作られたり
4:「老い」を意識した内容がみられる
  老いと生の問題を取り上げたり,死の受容にかまけたり

 あ〜、ま〜、そうかな〜という感じはあるけどね。
 期待した「漫画家の画風」に適用できるような研究講釈は見いだせなかった。

 しかし、困ったな。自分は幼い頃から2はともかく、作風はずっと1,3,4に突っ走っていたような気がするんだが。ouch

〓〓〓 EP 〓〓〓

アンカー【老後は幸せですか?】


 さて、冒頭に戻って、高齢者差別の話だ。

●人間は日々変化していく
●高齢者の個人差はでかい
●技能は年とっても衰えない
●狭視野を脱し、相対的&包括的な視点を得て、人生の知恵が熟する

 そんな高齢者や老後に対して、
  きたない
  とろい
  飲み込みが悪い
  使えない ・・・・
最も問題がある差別観は、「歳をとると不幸になる」だろうか。
 お年寄りは、不幸せな暮らしをしているだろうか?
 (ここでは高齢者「心理」の話なので「今の経済的負担」がどうのという時代状況のファクターは脇へ置いておきます)

若人にありがちな、人生に対する大誤解
2008/02 Older People Are Happy: Life Begins At 40 And 50 And 60
 実際は、年寄りはみじめな存在ではございません
 幸福なその後の人生をご覧じろ

お付き合いが少なくても、幸せな老後
2008/06 EurekAlert UQ research finds aging is satisfying
 若い大人は、社会的活動がお盛んだけれど、高齢者より不幸せだね

老いたくない? 老後は悲惨という間違い
2006/06 EurekAlert Hope I die before I get old?
 Study finds attitudes about aging contradict reality
 若人は老後が不幸だと思い込み、老人は過去の思い出を過大評価
 実際は、幸福度計測でハッピーなのは高齢期!

2001/09 琉球新報  長寿は「物事にこだわらない」/新100歳の実態調査
2001/09 読売新聞 100歳以上 ハイペースで増加  1907人調査
 「毎日気分いい」8割 楽しみ持って生き生き

●右画
人は、歳とともに楽天的になる
 高齢者にとって孤独、憂鬱、退屈は、さしたる重荷ではなくなるのです
2001/01 news.excite.com Negative Emotions Fade with Age: Study
歳とってハッピー
 お年寄りは気分が落ち込んでも回復が早い
 身体は加齢とともに衰えるが、情緒面は歳とともにより健康になっていく
2000/10 Washington Post Emotional Health Increases With Age


 あれれれれ。
 逆境にあってもけっこう幸せ?
 ていうか、若いもんより幸福のコストパフォーマンスが良い

 少々の逆境でも、若いもんより幸福の見つけ方がうまいんだね。

 ・・・では、なぜ今、お年寄りは「苦しい立場」に追い込まれているんだろう?
 高齢者が尊厳を保てない状況に置かれている?

〓〓〓 EP 〓〓〓

アンカー【尊敬してくれないとぼけるぞ】


ヒトは無力なポジションに置かれると能力が損なわれる
2008/05 EurekAlert Having less power impairs the mind and ability to get ahead, study shows

高齢者という呪い
 「年寄り」というキーワードだけで本来の能力が発揮できなくなるtamage
2006/07 New York Times A "Senior Moment"or a Self-Fulfilling Prophecy?

 能力が発揮できなくなる?

 はい、ここでご用とお急ぎでないむきは、「偏見を浴びると能力が落ちるのだ」という点を復習しておいて下さい。
 → 2006/07 自己成就効果という呪い 自己暗示で落ちる脳力
 → 2008/04 『 偏見が女を縛る:数学の才能は女にもたっぷり 』
 偏見が、使えない人材を生んでいきます。偏見がなければ、ヒトは伸びる。
テレビをよく見るお年寄りは加齢を悲観しやすい
2005/06 EurekAlert Watching more TV increases seniors' negative views of aging

 メディアが発信する高齢者偏見の情報を浴びてばかりいて、
  年を取った自分はじゃまだ
  年を取った自分はきたない
  年を取った自分はとろい
  年を取った自分は飲み込みが悪い
  年を取った自分は使えない ・・・・
と、自己暗示で不幸スパイラルに陥ってしまう。

 高齢者「イメージ」のそのままに自分の姿を見てしまう。
 偏見が、高齢者に暗示をかけ、暗示のせいで能力が落ちた高齢者を見て、偏見が補強されていく。

 じゃまではなく、きれいで、しゃきっとバリバリ働くスーパー老人は、実はそこらにたくさんいるのに、メディアはそうではないマイナスな高齢者像を描きがちなのか。
お年寄りは若いもんとつるんだほうが長生きできますよ
2008/05 ABC@オーストラリア Hanging with the young lengthens lifespan

2007/02 【日本語記事】 UK Today (JAPAN JOURNALS) 孤独と痴呆は関係あり! アルツハイマー病の罹患率、孤独な人は2倍に
2007/02 Rush University Medical Center Loneliness Associated with Increased Risk of Alzheimerユs Disease
孤独はアルツハイマー病のリスクを倍加させる
2007/02 EurekAlert Loneliness associated with increased risk of Alzheimer's disease
2007/02 BBC News Loneliness link with Alzheimer's

社交的な環境は、高齢者の生活の質(QOL)向上へのカギである
2003/07 EurekAlert Social environment is the key to quality of life for older people

貧困地域に住まう高齢者は、社交的に除外され危険に陥る
2003/07 EurekAlert
 Most older people in deprived areas are at risk of social exclusion

 人間が幸福になれる科学的な方法を覚えていますか。
 → 『 幸福になる科学的方法 』
  しあわせになる2大秘訣 その1:良い人間関係にあること
  しあわせになる2大秘訣 その2:お役に立てた感があること
 そう、社交が大事!
 リアルお友だちと交流できていますか?
 ていうか、若人、年寄りとつきあっているか?
 年寄りは不幸でめんどくさいと思い込み、交流を避けている若人が、自分の将来像を不幸に陥れてたりしないか?
 年寄りを避けていたら、将来自分が誰にも相手されない不幸スパイララー高齢者になっても文句言えんぞ。

 高齢者には自尊心が必要。
尊敬してくれないとぼけるぞ
2003/11 BBC News Low self-esteem 'shrinks brain'
 自尊心が低いと『脳が縮む』?
 自己価値の感覚が低いと、加齢に伴う記憶力欠損がひどくなるかも
 「後期高齢者」という呼称には、尊敬や尊重のニュアンスがなかったんでマズさ全開だったんだよね。

「■」

 不幸になる秘訣には 「その1:変化の多い暮らしをさせられること」という項目もある。
 「変化の多い暮らし」が幸せを奪う。
 なぜ?
 蓄えた知識、経験、そして知恵が使えなくなるから。
 誰しも、新しい場では不安と混乱に足を取られてしまう。
 本来なら高齢者は、蓄えた【手続き記憶】(熟練のスキル)や経験から尊敬され尊重される存在になりえる年齢だ。
 それが、時代を超えて使えるはずだった「手に職」が、どんどん廃業に追い込まれてきた。
 「過去の知恵が役に立たない」ほどに変化が激しい社会になってしまうと、老人のステータスはぐだぐだになってしまう。

 ひととおり復習するならこちら。
●社会変化が少なく、知識・経験・技量の蓄積や、財産の蓄積がステータスを大きく左右する世界の場合、老人の威信はでかくなる。
●社会変化が大きく、刷新を是とし世界を塗り替えてナンボ、の世界では、積み重ねた経験が使い物にならない。財産持ち以外の老人の価値は地に墜ち、弱者に零落して捨て置かれる。我々の社会は、今コレだね。
 → 2008/03 『 これが高齢期のステータス:老いの人類学 』

この箇所へのリンク【差別をすれば自業自得】


 老人は、自分自身の将来の姿に他ならないのに、自分をそんなに貶めてどうするのか。

●高齢者差別による暗示が、高齢者自身の能力を下げている
●今の変化を喜ぶ風潮が、将来の幸福度を下げている
●変化の多い風潮が、若人との交流を難しくしている
●加齢への忌避や偏見が、若人の未来展望をダメにしている

 偏見は、脳力の発揮をさぼって安直に思考すると発生します。
 もともと偏見を持ちやすい人は、脳力を使うことをさぼっているわけで、そのぶんボケやすくなります。
聞く耳など持たぬ
2006/02 EurekAlert Elders' stereotypes predict hearing decline
 もともと「偏見が強い人はぼけやすい」
 高齢者の能力について偏見が強い人ほど、年とって耳が遠くなりやすい ma

関連記事:追記

自業自得
 高齢者差別をする若者は健康にハンデ:長期調査の結果
2009/03 EurekAlert The perils of ageism
 年寄りに対してネガティブな偏見を持つ若者は、のちに心臓病・循環器系疾患に見舞われる率が高い

「年をとるとぼける」と思い込んでいる人ほど、ぼけやすい
2009/04 EurekAlert Think memory worsens with age? Then yours probably will


 我々は自分で自分(の将来)の首を絞めているんですよ。
 長く生きるほど、知識と知恵が蓄積されるほど、尊敬される存在になれる社会・・・ それは「選択」可能なはずではなかったか。

 「能力がない年寄りが、有能な若人の賃金を不当に搾取している」
 「年寄りのほうが狂暴で犯罪率が高い」
 こないだ、そんな暴言を記しているブログを見かけてしまったし。tear_flow

  世代間交流が不足し、
  加齢で蓄積したスキルが役立たないほど変化が激しい世界
 せっかく蓄えた人生経験が、高齢者の「結晶性知能」が使えないこの状況は、人心が望んだ理想の未来に向かう道程と言えるだろうか。
 尊敬が期待できない老後。
 人生を歩む生者は、貴重なこの世での時間をのきなみムダにさせられていないか。

人は変わるんです
2003/05 EurekAlert Personality is not set by 30; It can change throughout life
 人格の成長は大人になったら終わりではない
 パーソナリティは生涯を通して変化を見せる
2003/05 New Scientist Personality changes throughout life
2003/05 BBC News Personality 'improves with age'

人間、90歳こえても一人で生活できるほど元気なものです
2003/02 BBC News Over 90s 'still mentally alert'

老人学:健康な老年時代
 人間は、長生きするほどまわりに迷惑をかけますか?
 そんなこたありません。元気にたくさん誕生日を迎えましょう
2008/10 Nature Gerontology: Healthy old age
doi:10.1038/455739a

幸せな老後を迎えるカギは、
2002/05 EurekAlert! Supportive spouse, family, friends contribute to 'successful aging'
 支えてくれる配偶者、愛すべき家族、そして良い友人達

単に信仰するだけでは、高齢者の暮らしの質向上や死の恐怖軽減には効果が少ないようだ
2001/11 EurekAlert! UF study: Religion doesn't influence sense of well-being or fear of death in seniors
 それより人生の目的を見出すことのほうが重要


 さあ。
 きみは良い高齢者になれる自信はあるかな?

〓〓〓 EP 〓〓〓

 話は以上で一段落です。

この箇所へのリンク【その後の関連記事 追記コーナー】

死亡記事の写真は、老化顔に対する偏見が悪化していることを示唆する
2009/05 EurekAlert Obituary photos suggest growing bias against aging faces
 特に女性の場合、死んだ当時の年齢ではない、若いときの写真を死亡記事に使う傾向が、この30年間で倍以上になっている

2009/06 EurekAlert Having a higher purpose in life reduces risk of death among older adults
高い人生の目的を持つことは、高齢者の死のリスクを減らす

〓〓〓 EP 〓〓〓

アンカー【蛇足:「恥」の話】


 蛇足ながら、同じことを他の項でも後日ぼやくかもしれないけれど、ショックな出来事があったので、ここにも記しておきます。

 過日、気になる言説に出くわしたのです。
 「能力のない者が貧しいのはアタリマエだ」。発言者は若いプログラマだった。
   エエエェ ェ ェ ェェエエエ  !Σ( ̄□ ̄;)
 一昔前なら、「能力のない者を貧困に放置することは恥である」という規範があったのではなかったか。
 わけわかんなくてうろうろ混乱の日々を送る中、下記の記述を見いだして
◆ リスク学入門
橘木俊詔 「経済学上のリスク対策」
 日本の社会は格差社会に入ったとされる。 [〜中略〜] 食べることに困る人の存在は人間社会にとっての恥とも言えるので,貧困のリスクを議論してみたい。

 『リスク学入門 2 経済からみたリスク』
 橘木 俊詔 (編さん)
 岩波書店 (2007/10)  p.3

 ああほら! やっぱり恥でしょう! いや、今は恥とも思わない世代がのさばってきているのか!? 社会関係が眼中にない成果主義のIT企業やバイオ業界にいると、そんななっちゃうのか!? 相対的な視点は欠落しているのか??
 ・・・などなど、混乱しつつも、橘木氏の記述にほっとしたのだった。

追記:
90年代を境に、新自由主義によってそのあたりの価値観がゴッソリ切り替えられてしまったんだそうです。
 → 2008/10 『福祉をさぼるネオリベ思考:「ダメな者は悪だから切り捨てろ」の台頭』
隠微な優生主義といったおもむきでしょうか。




◆エイジング心理学

 その後の新刊
 『エイジング心理学ハンドブック』
 J.E.ビリン、K.W.シャイエ編
 北大路書房 (2008/07)


メタル


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