2005/06 【日本語記事】共同通信 人を信用させる物質特定 ホルモンの一種、悪用心配
オキシトシンのその効用については今わかったわけじゃないのに、とっくのとうの、一昨年あたりから「オキシトシンは信用ホルモンである」という話は沙汰されているのに、日本のメディアのこの表現はいかがなものか。
いや、知られていたのはもっともっと前からかもしれない。
信用しなさい あなたの脳内ホルモンがそう言ってるからさ
Paul Zakとオキシトシン
2003/11 IndyStar.com Trust us -- it's a brain hormone boosting reliance
2003/11 ネイチャーバイオニュース ホルモンが結ぶ信頼の輪 人間を親しくさせる化学物質
クレアモント大学院大学(米国カリフォルニア州クレアモント)のPaul Zak
この2年前の秋に信用ホルモンについて語っているポール・ザクが、今回のオキシトシン・スプレー実験をやった一人。
2005年の時点で報道の見出しにすべきだったのは、「人を信用させる物質オキシトシンが発見された」ではなく、「人を信用させる物質オキシトシンを鼻にスプレーしたら効いた」という点ではないか。
オキシトシン・スプレーというアイデア、もしくは浅慮
脳研究者ダマジオのコメント付き
2005/06 news@nature.com Trust in a bottle
2005/06 New Scientist Trust me, I'm spraying you with hormones
2005/06 【日本語記事】ワイアードジャパン 嗅ぐと信頼が高まる物質 スイスの研究チームが実証
オキシトシンの研究者、ポール・ザクさんのお写真と業績
とりあえず、「信用ホルモンってもんがあったのか!」と驚いているようでは「オクレテルゥ~」です。

さらにこの愛情ホルモン・信用ホルモン「オキシトシン」に関する手元の情報を並べてみると
....以下つづき....
【オキシトシンで「かわいい」!】
赤ちゃん、子猫、レッサーパンダ・・・「かわいいビジュアル」は、脳内のオキシトシン分泌のきっかけになる。かわいい物を見るだけで、脳内にオキシトシンが分泌され、快感がわき、それを大事にしたくなる。
かわいいルックスをしていれば、相手の脳にオキシトシンを出させることができるので、相手を油断させ、親切にさえしてもらえる。かわいいルックスは無敵。
つまり、オキシトシンを出させるような刺激を、ヒトは『かわいい』と呼ぶのである。

【オキシトシンで愛の対象を記憶に刷り込む】
警戒心をやわらげ、許容心と安心感をもたらす、加えてその対象の記憶を強く刷り込む、この効果は生物的に肝要な場面で適宜発揮される。
ヒトにとってオキシトシンの効用が必須である重要な場面は、乳幼児(赤ちゃん)の保護。
乳首への刺激は、オキシトシンの放出をうながすのです。
赤ちゃんにオッパイをあげているときに、親が赤ちゃん怖いとか、吸われてキモイとか感じてくれてはまずいわけで、親の赤ちゃんに対する警戒心はグッと下がってもらわないと困る。「たまらない」ほど、愛おしんでもらわないと赤ちゃんは生きられず人類滅びてしまう。ゆえに、オキシトシンはせっせとヒトの母性本能を刺激する。
オキシトシンによって警戒心は低下するけれど、それがただの快感だけに終わってもらってはもったいない。オキシトシンを分泌させる対象が「愛おしい」にまで持っていくような反応も、脳はしてしまう。
オキシトシンの分泌は赤ちゃんのルックスだけでも引き起こされるけれど、乳首への刺激によるオキシトシンの分泌は、その刺激の元に対する長続きする愛着を、刷り込む効果がある。
(乳首への**は念入りにしよう。愛撫をないがしろにする男は、長く愛してもらえないかもよ)
オキシトシンの効果があるおかげで、未熟で無防備な状態で生まれても、ヒトはなんとか生かしてもらえ、長く育ててもらえもするわけで。

「男はなぜ暴力をふるうのか 進化から見たレイプ・殺人・戦争」
マイケル・P.ギグリエリ著 朝日新聞社 2002/10
(1999/Ghiglieri/The Dark Side of Man)
オキシトシンは人間の母親が初めて母乳を与えるときに直ちに分泌される。
鎮静剤としても働き、痛みを鈍らせる。
母親の優しく献身的な愛情をも誘発する。
オキシトシンがなければ生まれた自分の子をそれと認識することさえできない哺乳動物も確認されている。
オキシトシンは脳と生殖器官をつなぐ迷走神経に強く作用する。(p.79大意)
ここで「痛みを鈍らせる」効果について言及されているけれど、オキシトシンによく似た名称のオキシコンチンという鎮痛剤が別途存在するのでご注意を、との指摘もある。
2005/06 FuturePundit: Oxytocin Makes Human Minds More Trusting
Note: Oxytocin is not the painkiller oxycontin.

「良い父親、悪い父親:動物行動学から見た父性」
ジェフリー・M.マッソン著 河出書房新社 2000/10
(The Emperor's Embrace)
母乳に含まれているオキシトシンやプロラクチンは、ほかのどんなビタミン剤もかなわない平安と愛着をもたらしてくれる。(p.241大意)

「医者が患者をだますとき」
ロバート・メンデルソン 弓場隆訳 草思社 1999/02
(1979/Confession of a Medical Heretic)
赤ん坊が乳首を吸うと、射乳反射で母親の体内ではプロラクチンやオキシトシンが分泌される。
これらのホルモンには、産後の出血と不快感を和らげて、子宮を早く収縮させてもとの状態に戻すだけでなく、母親になった喜びを実感させる働きがある。(p.163大意)
上掲三冊はいずれも2000年より以前。当時はもっぱら母乳と母子愛着がオキシトシン的話題の中心だった。
「信用=警戒解除」効果が注目されてくるのは今世紀に入ってから。
『バイアグラをめぐる虚実と女の性感』
乳首が立つのは性感とは関係ない。
物理的刺激によって鳥肌みたいに自動的に収縮するだけであって、「性欲を感じているから立っている」わけでは全然ない。
乳首への刺激は快感を呼び起こすが、それは股間への刺激で生じる快感とはやや種類が異なる。乳首に適切な刺激を与えるもの、ソレに愛着を感じるように作用する快感が生じる。赤子が乳首を含むと母親はより赤子に愛着を持つようになる

●信用ホルモン:オキシトシン
排卵中の女性で信頼姿勢が低まるわけ
自閉症児がなつきやすいわけ
母乳保育にオキシトシンが関わるわけ ~Paul Zak
2003/11 Nature Science Update Trust begets hormone Oxytocin may help humans bond.
2003/11 ネイチャーバイオニュース ホルモンが結ぶ信頼の輪 人間を親しくさせる化学物質
オキシトシンは、警戒を解くべき対象(信用すべき相手)を記憶に刷り込む効果も持っている。
●[最先端医療]岡山からの報告 「オキシトシン」 記憶力を高める効果解明 /岡山
2001/12 ヤフージャパン(毎日新聞)
●出産、授乳で記憶力アップ オキシトシンに効果発見 動物実験 岡山大グループ
2001/11 ヤフージャパン(時事通信)
●マウスと記憶 社会的記憶の鍵を握るオキシトシン
オキシトシン不足だと、どれが過去につきあったメスかわからなくなる
2000/07 ネイチャーバイオニュース
どの対象が「警戒不要」なのか、そこがあやふやだったらだまされまくりになりかねない。オキシトシンの信用効果は、確実に的確に効いてくれなければ意味がない。

【警戒しないこと、信頼すること、愛すること】
「警戒不要」な相手と言えば、恋愛対象。
●オキシトシンで恋に落ち
2002/02 Psychiatric News Volume 37 Number 3 Falling in Love: Is It All Flowers, Chocolate, and Oxytocin?
●恋愛の化学 ~Gareth Leng
母性愛と出産とセックスのオルガスム
オキシトシンが書き換える脳回路
2004/02 BBC News Expert explores chemistry of love

「脳のはたらきのすべてがわかる本」
ジョン・J.レイティ著 堀千恵子訳 角川書店 2002
(2001/A User's Guide to the Brain)
熱烈な恋愛期が過ぎたあとの脳ではエンドルフィンの分泌が高まるとともに、オキシトシンやバソプレシンが分泌され、男女の間の平静で安らかな愛着を深めていく。(p.343大意)

恋愛や愛情は、脳の回路が変化することで生じる。
脳の回路とその反応を変化させるのはホルモンや脳内神経物質。
動物の種類によって、その生態に適した脳内反応は備わっているわけで。

「やわらかな遺伝子」
マット・リドレー著 紀伊国屋書店 2004/04
(Nature Via Nurture 2003/04)
マウスでもヒトでも、オキシトシンとバソプレシンは脳内の同じ部位で作られ受容体も酷似。
どちらも性交の際に生成される。(p.67大意)
●バソプレッシン、オキシトシンと、社会性哺乳類における社会的行動
一夫一妻種とペアボンドが一定しない種の違い=雄脳のバソプレッシン受容体の違い
2004/12 Current Opinion in Neurobiology Volume 14, Issue 6 Vasopressin, oxytocin and social behaviour

性行動には性差が伴う。
●情報庫: 性淘汰 脳の男女差
●女よりも愛情のきずなホルモン(オキシトシン)が少なく、鎮静用脳内物質(セロトニン)も少ない男脳
2003/10 ロイター Brain science reveals what men are really thinking
●親ホルモンが子の面倒を見る 自己錫牲も恐ろしがらない子愛の秘密
オキシトシンは母らしく, バゾプレッシンは父らしく
2003/11 ハンギョレ21@韓国
かといって、母性父性と区切って済ますのも浅慮。
世の中には狭量で人嫌いの女性もいれば、人柄がよく信頼を集める寛容な男性もいらっしゃる。
母さん役が似合う男性もいれば、父さん役にぴったりな女性もいる。

ひよわな赤子の直接の生死に関わる局面を守り、家族全般の保護、そして友人知人との同盟関係の保持もつかさどるオキシトシン。
相互の信頼を保持させるオキシトシン。
まぁ、これらの効果はオキシトシンだけの専売特許ではないのだけれど、一応オキシトシンに関してのエントリですのでこればっかでごめん。

●友人がいてくれるとストレスはやわらぐ
友人とオキシトシンがいっしょだともっとやわらぐ
抗ストレスホルモンの服用実験
2001/03 Yahoo! News Friends And Hormones Interact to Decrease Stress
●男がすねるわけ オキシトシンがストレス反応として引きこもらせる
これら脳内物質研究が精神医学界や進化心理学に与える影響
2000/09 Salon.com Better loving through chemistry
Why do guys sulk after a fight with their girlfriends instead of talking the problem to death? It's the hormone, stupid!
●親しさを作り出す脳内物質オキシトシン
オキシトシンを欠いたマウスはいつまでたっても同僚を隣人とみなせない
2000/06 New Scientist Forget me not How we bond with our nearest and dearest
2000/06 THE GUARDIAN Know your own mother

「脳の探究:感情・記憶・思考・欲望のしくみ」
スーザン・グリーンフィールド著
新井康允監訳 中野恵津子訳
無名舎 マクミランランゲージハウス(発売) 2001/09
(2000/Brain Story, BBC)
分娩・授乳・オーガズムの際に子宮を収縮させるホルモンとして知られてきたオキシトシンだが、脳内のオキシトシン受容体は「報酬」に関係する領域に存在しており、人間の社会行動上、重要な役割を果たしている。
肯定的な人間関係を感情体験すると、社交上手な女性では血中のオキシトシン濃度が急上昇する。
社交下手な女性ではさほどの濃度上昇は見られなかった。
ひきこもりなども、なんぼかオキシトシンをカギに考察してみるべきかもしれない。(p.168-169大意)
ということで、人見知りをする人、人に会うのが恐い人おっくうな人、これまではセロトニンがいいんじゃないとか西洋オトギリ草はとかいろいろお薬言われていたけれど、候補にオキシトシンも挙がりましたよと。
人間が恐い、それはオキシトシン不足のせい?

【商品としてのオキシトシン】
ただし、自分でわかってオキシトシンを用いるならまだしも、今回のスプレーが注目されちゃったのは、他人が他者を操作する目的で意図的にオキシトシンを用いるケースがどうなのかよという点で。
オキシトシンを…直接目の前でスプレーされたら。 ぎょっとして避けると同時に(?)その相手を信用するように…なったりするのか? スプレーだと、噴霧者自身までその効果をこうむってお互い信用関係に陥ったりして意味不明?
いや、このオキシトシン・スプレーに関しては、噴霧してから効くまでには小一時間もかかるらしいので、その手の操作目的では、かなり使いづらいシロモノのような。
それよか「飲み物に混ぜ」て個室でしばらく相対する?
これは…いわゆる惚れ薬のバリエーションなのか?

【オキシトシンを購入する】このたび話題になった研究はスイスからのもの。
スイスでは、フツーに薬屋さんでオキシトシンを買うことができるのだそうだ。サプリメントになっているのかな。
神経科学者は、数年前から経済の研究や消費者操作にオキシトシンが使えるのではないかと目して調べている。
脳内オキシトシンが多い国民は、無防備にたくさん消費してくれるんじゃないか、とか、オキシトシンを分泌させれば言いなりにモノを買うようになるんじゃないかとか。
オキシトシンと世界経済”神経経済学” 国別のオキシトシンレベル調査は効果ある?
2003/10 DallasNews.com For better economy, trust the happy hormone
脳操作がらみで目をつけられている物質はオキシトシンだけじゃない。
そも日々開発されている向精神薬、薬屋で普通に買える向精神性のある市販サプリメント、気分や神経反応を調製する脳内埋め込みメカ…
2005/06 【日本語記事】ワイアードジャパン 神経科学で商品を売り込め ニューロマーケティングの挑戦
誰かの脳を操作する研究は、着々と進みつつある。その倫理問題は、海外ではかねてより再々論議されているのだが、なぜか日本では全然…

上記は主に2005年に記された内容です。
【追記コーナー】

その後、2008年に こんな本が出ました
『オキシトシン 私たちのからだがつくる安らぎの物質』
シャスティン・ウヴネース・モベリ著
晶文社 (2008/10)
この本『オキシトシン 私たちのからだがつくる安らぎの物質』の内容や、2005年以降のオキシトシンについての新しい情報は、
2009/03 『オキシトシン:愛撫で顔の記憶が良くなるかも?』
に並べてみました。
こんな情報も出てます。
オキシトシンは信頼しうる人に対してだけ効く
信頼しえない人への信頼感を高める作用はない
ご参照下さい。

![[科学に佇む心と身体]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)


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