要点はこうかな。

『クジラの死体はかく語る』
荻野みちる著
講談社 (2005/04)
●・日本のクジラ研究者はクジラを「殺して」調べても、ろくに研究発表しない
殺さずに調査をしている国々からは、ばしばし調査成果があがっているのに
・公式には、日本近海にはクジラはいないというアホなタテマエになっている
・クジラを研究していない日本人が、勝手に日本のクジラ研究者の代表をやる
●・食えないほど汚染されているクジラ・イルカ肉が、フツーに売られ食われている
・捕殺されているはずがない超希少種のクジラまで日本で食肉になり売られていた
・食うか、かわいがるか、止まりな浅い日本のクジラ観(文化?)が国民の命取り
この本の柱は2本。
日本の行政(研究や政治込み)のダメダメさ。
クジラも人間も襲う海洋汚染の恐怖。
... 以下つづき...

・食物連鎖の頂点、有毒物質の集積所になる海棲哺乳類は、
魚をよく食べる人間より先に、毒味をしてPCBや水銀、貝毒にやられて死んでいく
・死んだクジラ、漂着したイルカを食べるのは問題外、毒を食うようなもの
・クジラやイルカを調べると、海の汚染状況がわかり、
魚介食の人たちの健康を守ることにつながる
・いまどきのクジラ・イルカ類はとんでもなく高濃度のPCBや水銀を蓄積している
・脳をダメにしてボケを招く貝毒(ドーモイ酸)もクジラ・イルカ類には豊富
p.158
牛肉で、生産者を特定できるシステムを作った日本なのに、なぜクジラ肉の安全性を重視していないのだろうか。
このさき癌や認知症が当たり前になりつつある今日このごろ、何が原因で病気になったのかわからないまま死んでいくよりは、今のうちにたくさんクジラを食べて、自分の死病を「国の怠慢」のせいにすれば、うまくすれば国を訴えて補償をゲットできるかも。
アスベストみたいに特異的な癌(中皮腫)になれるわけではないけれど、少なくとも「自分が病気になったのは毒クジラ肉を放置していた国のせい」とやつあたりして気を晴らすことはできるでしょう。
●遺伝子解析によるプロファイリング
・海外はクジラ各個体を識別しリストアップしまくっている:日本はおいてけぼり
p.46
いまや、極言すればクジラは肉一片、そして骨のかけらからも、身元不明で処理されるどころか世界のどこで見つかっても、どこのクジラか、そして誰だかわかるのである。これがまさに欧米のクジラ研究である。
・日本で売られていたクジラ肉(ミンククジラのハズなのに)を調べたら、
ありえない肉がぞろぞろ出てきた(1999年当時の発表)
実は馬の肉、実は羊の肉、実はシャチの肉、超稀少なシロナガスクジラの肉も!
p.160
問題は、売っている側が、自分の売っているクジラの産地どころか、種を認識できていないということである。
p.46
ハーバード研究チームの無念は、貴重な混血クジラを殺した犯人への憤りだけでなく、そのクジラ肉が日本で売られていることへの国際的な責任問題や、科学研究上の損失はもちろん、世界でもっとも厳しい保護下におかれているはずのシロナガスクジラが産んだ貴重な混血種の死があまりにも人為的であったことへの怒りであった。
そして問題は発見現場が、日本である。この事実は、食文化では返答にならない。
水銀毒まみれのマッコウクジラも、素性を伏せて売られていた。
p.48
日本では、水銀の残留問題からマッコウクジラの調査捕鯨の肉を市場に出さないと新聞で公表しており、それならなおのこと、どこからマッコウクジラの肉は来たのか疑問である。
誰が殺したのか、なぜ日本で売られているのか、わからないどころか、なぜ日本では自国民の命に関わることなのにまともに調査さえしてくれないのか。

●本自体は:
現場で志を持ちながら、その志をどう生かせばいいのかつかみきれぬまま、憤懣と杞憂をたくさん抱えながら行政の不備の中で翻弄される者の声が書き連ねられている。
言いたいことはたくさんあるのだろうけれど、強調したいことだらけではちきれそうなのだろうけど、言いたいことはひととおり伝わりはするけれど、話の中、前後重複は多いわ、顛末しぼりきれてないわ、連想と感情で筋道つなげましたみたいな、良く言えば初々しい、悪く言えば詰めが甘くて著作としてはまだまだ素人。
良く言えば現場からの声。
悪く言えば、総合的視点、大局把握(政治込み)が物足りない。
さらには、これらの問題を読んだ人間は「どうすればいいのか」示唆もなくほったらかしな気配りのなさが悔やまれる。
どこに問い合わせればいいのか、どこにアクセスすればその後の展開が見られるのか、どこに働きかければ状況を改善していけるのか、何も与えないまま「クジラさんかわいそう」みたいに終わっているのでこれじゃ「著者と同じ無力な憤懣と杞憂の中にあなたも放置プレイね」みたいな。
編集側で気を効かせられなかったのか。
もう誰かがやってしまっているかもしれないが、この主題は個人レポを廃して大局やノウハウを加味し、書き直して再度世に問う余地はあると思う。

●汚染指摘の偏り
欧米ではクジラのたぐいは食べないので、海の幸における汚染が食品で問題になるのは、もっぱらマグロやカジキなどの大型魚類。
海の水銀汚染については
そんな大型魚類どころではないレベルでチョー汚染されまくっているのが、クジラ・イルカ類。
日本で過日(2003)沙汰されたのはキンメダイ。
なぜか、キンメダイ。
なぜクジラ・イルカの汚染は無視される?
それともひとつ、なぜマグロの汚染は二の次だったのか。
「食文化」で大事にする食い物、政治家の好物は、汚染があっても気にせず売る?
老い先短いお偉いさんは、好物の毒は無視して国民にお勧めする?
「食文化」だからクジラもイルカもマグロも妊婦が食べてもしょうがない?
しかも、当初( 2003年6月)キンメダイ水銀汚染を発表したとき、厚生労働省は「ではどうすればいいのか」のフォローなしに発表だけしてしまったのでエライ世間の不安と現場の混乱を引き起こした。(この点は当該書『クジラの死体はかく語る』にも通じる…「ではどうすればいいのか」情報は添えてくれ)
2005年の発表では、前回の反省をこめて、対処の仕方など詳しく記したパンフレットを発行し、関係各機関に周知して二の舞は防げたわけだが。
どう伝える 食の安全〜妊婦が食べる魚に新基準 2005年08月29日クローズアップ現代でも…
総水銀 0.684:メチル水銀 :0.532 魚類キンメダイ
総水銀 0.723:メチル水銀 :0.542 魚類クロマグロ(本マグロ)
総水銀 1.035:メチル水銀 :0.370 イシイルカ
総水銀 7.100:メチル水銀 :1.488 コビレゴンドウ(クジラ)
総水銀 1.168:メチル水銀 :0.698 ツチクジラ
総水銀20.840:メチル水銀 :6.622 バンドウイルカ
総水銀 2.100:メチル水銀 : 0.700 マッコウクジラ
〜厚生労働省「我が国における水銀摂取量と耐容量の比較(暴露評価)(案)」
薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会乳肉水産食品部会
(平成17年8月12日開催)配付資料より厚生労働省:魚介類等に含まれる水銀について
マグロ、クジラ、この数値…。
おっちゃん、おばちゃん、「お祝い」と称して妊婦や赤子にクジラやトロを食わせなかったか? 大丈夫か?
※ 日本海側某地方など、イルカの肉を郷土色として重用している地方はある

●ドーモイ酸という汚染毒
当該書『クジラの死体はかく語る』、汚染や毒性のくだりに関しては「杞憂」な印象を与えかねない甘さが見られる。
それはそれとして、もうひとつクジラ肉汚染の目玉としてあがっているのが貝毒の一種「ドーモイ酸」。
この本ではドーモイ酸だが、ドウモイ酸とも表記する。
グーグルで検索するとだいたい同じ数ヒットする。詳細は検索してみると吉。
『クジラの死体はかく語る』の出版は今年の4月付け。
その翌月、フライデーが(当該書をネタにしたのか)
【緊急レポート】世界で頻発する「クジラ大量死」は人類への警告だった戦慄! “海のBSE【ドーモイ酸】”で「もう魚も食べられない!?」
を流している。
食物連鎖で蓄積するこの毒は、まず食べた人の記憶力を破壊する。
「脳」を壊す。
そういう意味で狂牛病呼ばわりしてくれたんだろう。
このドーモイ酸がクジラ類の体内にたくさん蓄積している。
特に近年異常に。
少なくとも、ボケたくない人は、クジラ・イルカは食べないほうがいい。
クジラ肉を放置している政治家さんは、たくさんクジラを食べて、とっくにボケているのかもしれないし。
p.158
ドーモイ酸の汚染は、火を通して調理をしても、大丈夫という保証がない

p.73
もし死んでいるクジラを発見したら、{中略}
種によっては触ってはいけないと定められているものもいるので注意が必要である。日本ではシロナガスクジラ、セミクジラ、スナメリの三種が厳しい保護下にあり、たとえ死んでいても届け出が必要となる。
触ることを制限している種もあり、死体も動かしてはいけない。
{中略}
死んだクジラには直接手で触らないこと。もしどうしても移動させるような状況のときには、必ず手袋をしてほしい。
素手で触ることは極めて危険である。何が起きて死んだかが不明であることや、どんな感染症があるかもわからないので、未知の状態のものに触れることは危険なのだ。
死んだクジラを見つけたら、すぐに切り取って食用にする人がいるが、これは絶対に勧められない。
●クジラの死体を食べたがる人々
なんでか知らんけど、「クジラがあがった」=「クジラが食える」と思い込む人は(地方によるけど)普通にいる。
これこそ「食文化」なんだろうか、海岸に包丁とボウルを持って駆けつけなさる。
野生動物が原因不明で異常死したのに?
ことクジラに関しては、「危ない」とか「食中毒」とかいうアタマはすっとんでしまうらしい。 一種祭かマナみたいな? 「海の幸(さち)」感覚?
でもって、クジラを食することに思い入れを持つ種類の人間は、そも「食品の安全性」に関する興味や見識は二の次三の次な人たちだったりしうるわけで、なまなか「毒だ」「危ない」とか伝えても「だからお役所は」などとわかってもらえなかったりする。
クジラは他の肉とどう違うのか。 どういう位置の幸(さち)なのか。
今現在の民俗観念から考察まとめた文献はないだろうか。

●お役所対応のお粗末さ
・調査しないお役所
ニセクジラ肉、野放し。
毒クジラ肉、放置。
・現場の人間がいくら資料を出しても、のれんに腕押し
・日本は海の汚染を無視するのがお好き
p.65
個人として参加した環境庁の職員は、「環境のことを考えたら環境庁には居られない」と発言した。これは致命傷であった。
じつは、来日中のプロファイラーや私の仲間は、この環境問題の草分けで、当時米軍が日本企業を相手どった環境問題の訴訟問題にも、科学捜査で貢献していた。彼らは、役所が幼稚園レベルである現実を目のあたりにした。
・今年正月の知床で流氷の中死んだシャチの群は、
行政判断待ちで10日間も死体を野ざらしに放置された。
死因も定かではない中、これ未知の病原菌が犯人だったら恐ろしいことに。
※ 出血のぐあいから、知床シャチの死因はソナー(音波探知機)だったのではないかとのこと。
音波探知機の問題については

科学研究を妨げているのは政治? 研究者自身?
p.150
海外での日本の評価はまったくクジラに関してはゼロである。
「『ネイチャー』や『サイエンス』に発表できるようなクジラの調査を、どうして調査捕鯨でやってないのだ」という彼らの意見は厳しい。
殺しているのに成果をあげない日本。殺さずにばしばし研究成果を公表する他国。
p.191だから日本近海で、人間にも危険な音波探知機調査が行われてしまう。
「日本人研究者の科学論文はない。だから公式には、クジラは日本近海にはいないことになっている」
クジラを取り巻く政治はものすごく気色悪い。
p.47
ニュースは日本国内では大きく報じられることはなく、むしろ反捕鯨国からの圧力として報じられ、欧米の生きたクジラ研究のレベルの高さを評価する記事は見当たらなかった。
クジラを取り巻く内外報道の偏見と食い違いはあられもなくグロい。
偏った報道をするメディアの実例

昔、給食でおいしくいただいたクジラの肉と、今流通しているクジラの肉は、もう全然ベツモンなんだよ。
ベツモン呼ばわりせざるを得ないほど、我々人間が汚したんだよ。


…今日テレビでローカルニュース見ていたら、「函館でクジラバーガー200個限定販売」だって。お客さんがおいしそうに食べていた。
「函館 クジラ バーガー」で検索すると、なんやぎょうさん…
●材料はミンククジラだそうですが、厚生労働省の上掲資料には「ミンククジラの成分データがない」
あ、別表にあった。s0812-3a1.pdf
総水銀平均0.155:メチル水銀平均0.120 ミンククジラ
同最大値0.830: 同最大値0.190
総水銀平均0.684:メチル水銀平均0.532 魚類キンメダイ
ふむ。
ミンククジラに関しては、危なすぎる数値だとは言われてはいないらしい(本当にミンククジラのみなのであれば)。
●しかし、当該ニュースでは「ミンククジラの水揚げ、豊漁」ともとりうるような捕鯨の映像まで。…調査捕鯨だよね。
皆さん、お大事に。

追記:2005/11/11
つまり、たいして進展はしていないということ?
「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項」の見直しに対して寄せられた御意見について
平成17年11月10日 食品安全部基準審査課 PDF (募集期間 H17.8.22〜H17.9.21)
日本生活協同組合連合会の意見 「鯨類の表示に関しては不適切な表示が認められることから、関係省庁と連携して表示の是正にあたるとともに、注意喚起の仕方をご検討いただくよう要望します。」
厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課の回答 「表示に関しては、今後とも関連省庁と連携してまいります。」

追記:
狂ったアシカが増加――海洋動物に広がる病気(上) ドウモイ酸の中毒
2006/03 【日本語記事】 ワイアードジャパン
狂ったアシカが増加――海洋動物に広がる病気(下)
2006/03 【日本語記事】 ワイアードジャパン
2008/07 【日本語記事】JanJan
つくられたナショナリズム:「調査捕鯨」と逮捕劇問題の本質は何か? 「くじらどうなの?公開討論会」・上

![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







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