一部のマニアの間、捜査関係者、そして自殺者の遺族には、有名かもしれないこの稼業。
「死亡現場のあとかたづけ」をやってくださる。
練炭自殺した兄の腐敗体液が染みた、車と駐車場。
床下まで染み広がった、病死した祖父の腐敗体液。
数日煮詰まった、入浴中に死んだ単身赴任の夫の人体スープ。
死んだ人間が残した、大量の血肉や遺品や責任の始末。
これは、残された親戚縁者がやらなければならない。
孤独死した叔父の、自室に残された大量のウジとハエ。
マンション下の地面に投身自殺で飛び散った、わが子の血肉。
どれも、遺族が、やるしかない作業だったんだ。
警察も、葬儀社も、そこまではやってくれない。
住民達が歩き過ぎる横で、地面の血痕を洗い流さなければならない。
その非情な現実に直面して、とほうに暮れる遺族たち。
そこに、ごく最近、スキマ産業としてこんな商売が登場してきた。


『遺品整理屋は見た! 孤独死、自殺、殺人・・・あなたの隣の「現実にある出来事」』 吉田太一 扶桑社 2006/09 [ Amazon ] [bk1]
『死体まわりのビジネス 実録●犯罪現場清掃会社』 アラン・エミンズ (著) バジリコ (2005/09/06) [ Amazon ] [bk1]
たまたま、日本とアメリカの、「死亡現場のあとかたづけ」商売についての本を読み合わせた。
どちらも、この10年くらいに、スキマ産業として台頭してきている。
この商売が登場するまで、遺族は自分で後かたづけをするしかなかったのか!
遺族は、個々の現場に巻き込まれてエライ目にあっても、それらは共通する事例として横につながることはなかった。ネットもない時代、孤立した特異なケースとしてばらばらに放置されていた。
そんなばらばらの悲劇が、災難が、この「死亡現場のあとかたづけ」商売が登場することによって初めて、「ヒトの死後にはこんな無情な現実がふりかかる」事例紹介集としてまとめられるに至ったわけだ。
... 以下つづき...


『遺品整理屋は見た!
孤独死、自殺、殺人・・・あなたの隣の「現実にある出来事」』
吉田太一
扶桑社 2006/09
これは関西の会社だ。
社名はキーパーズ。
本書には、日本の事例がたくさんまとめられている、というか、キーパーズの社長のブログが、まんま本になったような感じなのかな。
キーパーズの社長のブログ
現実ブログ!!「現実にある出来事の紹介」
独居老人、孤独死、自殺、ゴミ屋敷、遺品処理、少子化・・・ 現実にある出来事と体験談を紹介するブログです。
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つまり、そういう現場に駆けつけて処理をして下さるお仕事。
日本の『遺品整理屋は見た!』は、エッセイ集。それも、思いきり「人情/人間模様短編集」のような趣になっている。
こんなドラマを見た、こんな人間関係をかいま見た、この現場にはこのような人の思いがあった。
心に何かを残す「死後」エピソードの数々。
そして、そのエピソードの数々は、短編である以上に、どれも断片的なのだ。
「片づけでお役にたつ商売」として駆けつけた者が、よけいなせんさくに踏み込みすぎることなく、お役にたつ範囲で職務を果たす。その業務の中で接した範囲での、断片的なエピソードなのだ。人生の中の一場面。そのバラバラの場面をつなぎとめ、記録としてまとめた、『遺品整理屋』の視点、場面集。
どうすれば、最も良い心にたどりつけるのか。商売は二の次の、やるせないような、心に染みるような、内面語りに仕上がっている。(逆に言えば、作品であり、ドキュメンタリーではない)
打ち出されるフレーズは、「天国へのお引っ越しのお手伝い」。

困っている人を救えないかとがんばる図式。
この会社は去年、NHKでも特集されていた。
『シリーズ・にっぽんの現場』 NHK 総合テレビ 2007年11月22日放送
吉田太一[キーパーズ代表取締役]
1964年7月18日、大阪市生まれ。 [〜中略〜]
28歳で軽トラックを購入し運送業を始める。
2年後、引っ越しの際に不用品が大量に出ることに着目し、日本初の「ひっこしやさんのリサイクルショップ」を開業、マスコミにもおおいに取り上げられる。
1999年、吉田物流株式会社を設立。やがて、独居老人の増加に伴い身内の遣品の整理で困っている人が多いことに着目し、2002年全国初の「遺品整理」専門会社・キーパーズを設立。東京、名古屋、大阪、福岡を中心に事業を展開中。

ハイ、そしてこちらはうってかわって好対照、アメリカの『死体まわりのビジネス 実録●犯罪現場清掃会社』

『死体まわりのビジネス 実録●犯罪現場清掃会社』
アラン・エミンズ (著)
バジリコ (2005/09/06)
日本の『遺品整理屋は見た!』と、似たような業務を扱いながらも、中身は全然おもむきが違う。
こちらはやたら「起業の冒険/立ち上げのノウハウ/アイデアで勝負!」みたいな部分が全面に押し出されている。
ここに目をつければ成功する!
かなりギラギラした、人心の慰撫などどこ吹く風のビジネストーク。
いやー、似た内容の商売であっても、ここまで(表に見せる)スタンスが違うと、全く別の業務に見えてくる。雰囲気としては、日本側の著作がしっとりとしたNHK的「シリーズ日本の現場」だとしたら、このアメリカのはノリが「CSI:科学捜査班」だ。
『死体まわりのビジネス』 p.45
俺は『パルプ・フィクション』を見て思ったね、おい、これなら俺にもできるぞ! 死体を袋詰めにする胆力さえあれば、必ずやり遂げられるってな。そしてこのアイディアが頭に浮かぶや否や、警察が殺人現場の掃除をしないってことを知った。パパとママが四つん這いになって、壁に飛び散った坊やの脳みそを拭き取っているとも思えねえ。そこで少しばかり調査をして、思ったんだ。これで決まりだ、『犯罪現場清掃会社』で行こうってね」
映画の、殺人現場で死体の破片を集め清掃するシーンを見て、「これは商売になる!」と直感して立ち上げた一種ベンチャー企業、スキマ産業。
体液や血液や骨片の処理、ウジハエの退治の仕方は、どうやって身につけたのか。これが、なんとライバル企業に素人のフリをして「こういう場合、どう掃除すればいいんでしょうか」と電話で尋ねまわり、相手が懇切丁寧(こんせつていねい)に教えてくれる手段・薬品をちゃっかりそろえて準備万端!てなもんだ。(すごいな、顧客サービスさまさまだね)
営業をかけまくり、マスコミにも出て物議をかもし、会社の存在をアピールして顧客獲得に走り出す。
p.55-56
会社の最初の成功は、おもにニールの営業戦略によるものだった。ニールが犯罪現場清掃会社を立ち上げるまでは、生物学的有害物質の取扱資格を持った清掃会社がこの手の掃除を行っていた。しかし、ニールのように死を謳う会社は一つもなかった。彼らはただ清掃を謳っていただけだ。
「清掃会社というのは、どこまで行っても清掃会社なんだ。客が清掃会社を探す。『大量の血を掃除してもらいたいんだが、どこに電話したらいいかな? [〜中略〜] 何だって、専門分野が殺人から自殺・・・』。うちの電話が鳴るのはこのときだ。人は我が社の名前を忘れないのさ」
なお、アメリカ側の原書は2004年。
大阪の会社が起業したのは2002年。
ということで、『死体まわりのビジネス』を読んでそれをヒントに大阪が起業した、ということではない。
アメリカにはニールの会社以前にも、死体処理をやる清掃業者はあったが、それは業務の中の一部分でしかなかったのであり、看板に『犯罪現場清掃会社』と打ち出したものはなかった、そこが起業家として新しい物語であったらしい。

アメリカ的起業か、日本的人助けか、という、著述側のスタンスの大きな差に加えて、両著作には、文化風土の差も大きく出ている。
日本は、死後の思念が生者の中でわだかまりまくる。
死人が出た部屋は借りたくない。死後の遺物は持て余す。
腫れ物に障るような穢れの現象( 心を荒ぶらせる事象に感情が落ち着かない)に、縁者以外までもが巻き込まれて、復旧までに長くかかる。忌中気分が長く続く。
米国は、死後は神の管轄。
死者は神にゆだねられたのであり、死者の思いは生者が背負い込むモノではない。
「早く清掃を終えてくれ、予約の宿泊客がもうすぐ来るから」と、死体の血肉を片付けている業者に要求するホテルの支配人。
忌中の期間も、喪の習慣もない。

さて、世代によっても、社会的立場によっても大きく違うのだろうけれど、日本のひとばらは、どちらの本がお好みだろうか。
どっちにしろ、いつなんどき、「この死体のしまつは、法律上、戸籍上の縁者であるあなたが行って下さい」と言われるやもしれない現実がある。
人生の予習に、一読しておいて損はないと思いますよ。
へぇボタン:へぇ〜
と押してみるもよしうちにも、仕事上、廃棄してくれと依託された見知らぬご老人の遺品を持ち帰ってくる人間が約一名いてねぇ・・・。持て余すんだよな。古物商には出しづらいし、うかつにヤフオクに出すわけにもいかんし、かといって、無価値な品でもないわけだし、いやー、いっそどっかの寺に持ち込んでおたきあげしてしまうほうがいいんだろうか。本来、遺品なのだからそうすべきか。


![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







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